頼れるのは金のある肉親
この話は、田舎にある小さな家が建てられるところから始まる。自然と季節感豊かな地方にあるその家が都会への憧れをもっていたところに、都市化の波が訪れる。かつてのような面影は少しもなくなり、小さな家もその存在を無視されるようになった。そんな時、設計者のまごのまごのまごが小さな家を発見し、引越しをしようと提案する。引越しは実行され、再び自然豊かな田舎で小さな家は存在しつづけるのであった。
さて、この話は「都市化によって忘れ去られたものはないですか?」という反近代主義的な主張を読み取ることは可能だが、そもそもいつの時代においても変化に適応できない者が過去のノスタルジーに浸ること自体はよくあることだし、それは往々にして忘却による美化である。だが、それは現実を見ない後ろ向きの考え方にすぎず、何か自分にとって不利な状況に巻き込まれた時、今現在をどう生きていくかの方が重要である。その点で言えばこの話の中で重要な人物は設計者のまごのまごのまごである。彼女はたまたま都会を歩いているときに小さな家を発見し、おそらく多額の費用がかかったであろう引越しを行い、小さな家を元の状態に物理的にも精神的にも回復させている。彼女がいなければ小さな家は「嫌な」都会からも甘ったるいノスタルジーに浸ることもできずに遅かれ早かれ消滅していたであろう。
日本の地方が上京して出世レースに敗れた青少年を再び受け入れたように、(できれば金持ちの)肉親というコネがあるかないかがその人間の人生を決めることが往々にしてあるのだ。そういう意味ではこの話は能力も適応能力もない人間が都会で破れ、田舎の肉親に癒してもらうという「癒しとしての地方」のイデオロギーに支えられているといえるだろう。地方出身の芸能人が自分の出身を伏せるように、成功者にとっては「過去の癒し」など必要ないのだから。
- 作者: バージニア・リー・バートン,石井桃子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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コネは立派な力である。これがこの話の教訓である。