アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

読書ガイド~ぶち壊せ!さらば救われん。

 『千年王国と未開社会』はピーター・ワースレイ著、1981年に紀伊国屋書店から発売された。

東南アジアメラネシア人は、19世紀後半から20世紀にかけて、植民地化しようとやってきた白人と接触した。この時、彼らは白人の持つ豊かな物資と富に圧倒され、やがてこう考えるようになった。「近い将来、祖先の霊がカーゴ(積荷=白人達の財)を船に積んで帰ってくる。祖先の帰還とともに世界に大異変が起こり、あらゆる富が自分達にもたらされる日が到来するだろう」。こうしてメラネシア人たちはその奇蹟の日に備えて儀礼を行うようになった。いきなり倉庫を建て始める、救済に必要だからといって貴重な食料であり財産のブタを殺しまくり餓死者を大量発生させる、飛行機から物資が降って来るのを見て「精霊に変わって食物をもたらす天国からの使者」だと考える、などなど西洋文明化された社会に住む人間にとっては理解に苦しむ発想・行動が目白押しだ。GDPの成長率が悪くなったくらいで騒ぐ国だもの、特にブタを殺すあたりなど愚行という言葉以外出てきようがないだろう。

私がこの本を好きな理由は、最近よく言われるような「世界には色んな考え方がある」という無責任な言い分を根底から揺るがす力があると考えるからだ。このセリフには実際は何か「客観的な立場」があるという前提に立って「寛容な」態度をとったつもりになっている。しかし、そんなに安心していられるような距離が常にあるものなのだろうか?もし宗教的発想に取り付かれた個人や集団に襲われたら、「法と常識を重んずる市民社会」などひとたまりもないだろう。だって、「死ぬの怖くないです」と本気で思っている集団にいくら法律的なペナルティを説いたところで、抑止力にもならないだろう。私はいつも思うのだけれど、本当の価値観とは常に押し付けがましく、突然襲ってくるものに他ならない。この本はそれを再確認させてくれると同時に、人間とは常に「ピストルを突きつけられても拒むことができる」ほど自由なものなのだと教えてくれる。

 

 

 

千年王国と未開社会―メラネシアのカーゴ・カルト運動 (文化人類学叢書)

千年王国と未開社会―メラネシアのカーゴ・カルト運動 (文化人類学叢書)