アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

二極化する海外就職

 海外就職の現状についてまず話そうと思う。今の海外就職は大きく分けて、能力と意識の面で日本でも通用する「出来る人」と、日本でまともに就職が「出来ない」人がいる。多分真ん中の層は海外に出る度胸や情報がないから、いわゆる平均的日本人は海外就職しないのではないかと思う。私も歳が若いのだけど、日本の会社を経験した身からすると、相当普通の日本人からして「めんどくさい」と思われる人が多い。特に「出来る人」に顕著なのだけど、こういうタイプの人は自分に自信があって自己主張の強いタイプが多い。はっきりいって「腕試し」に来ている部分も大きい。企業にとって出来る人が入社すること自体はいいのだけれど、往々にして社内で摩擦を多く起こすのもこのタイプ。J社は後で詳しく書くようにそれまでのインドネシア経済全体の向上が企業成長の前提として大きいようなところだから、元々の人材レベルが低かった。そこにこういうタイプが入ってくると、問題解決能力の高い彼らは上司に対して社内改革、悪く言えば文句を言うようになる。「出来ない人」は元々できないから矛盾にもあまり気づかなかったり、それが当たり前だと思ったりしてそのまま勤め続けるパターンが多いのだけれど、「出来る人」は腕に自信があるし、海外で捨てるものもないから強気である。

 J社では昼頃の会議でほぼ毎日のように部長が吊るし上げられていた。はっきりいって部長は恐ろしく無能だったから、彼らの批判に論理的に対応することができず、最終的に「上司は俺だから」という理由で突っぱねいた。こういう反応を取られてさらに批判が高まるという悪循環に陥っていた。さらに、社長は古株の部長を首にすると退職金もろもろがかかる上、「今まで一緒にやってきた仲間だから」という理由で彼を雇い続けたから、「社長は何を考えてるんだ」と社内全体でひどく悪いムードだった。

 それで、こういう悪いムードが続くとどうなるかというと、「出来る人」が発言権をいやでも持つ中で、「上司に対して文句を言ってもいい」という雰囲気だけを「出来ない人」が共有することになる。若い人が日本から就職に来ていたが、仮に日本でのキャリアがなく新卒で入社した人も歳が近いだけで、仕事上のアドバイスを聞かなくなる。社内はどうしようもない状態になった。

 それでも会社自体は「出来る人」が個人の力だけでまわして行くからそれなりにまわるが、個人の力には限界はある。満を持した社長は外部からコンサルタントを入れるなどの対策をしたが、実行力がないコンサルタントは結果といて無意味で、社員の不満のはけ口にはなっても、社内の本質的な改革にはならなかった。実際、その会社で私が所属した1年で同僚だった人間のうち、半分近くが今年始めで退職し、インドネシア人スタッフもある部門では100%(!!)の7人だった。

 

 さらに、「出来ない人」なのだが、これははっきりいって、同僚とするには辟易するレベル。敬語や人との距離感など最低限度の社会人としての常識が欠如しているケースもしばしば。入社初日、同僚に挨拶した後、入社3年目でもうすぐ退社するという日本人の女性社員から会社のことについて色々話を聞いたのだが、「いきなりこの会社はだめだ」、「待遇がひどい」など愚痴られた。はっきりいって入社初日の人間に対していきなり会社の暗部を社内の会議室で話すのはどうかと思った。案の定、仕事はできず、取引先からも「話をまともに聞けない」として会社の業績に悪影響を及ぼしていた。

 彼女だけでなく、言葉遣いがまともでない人、サークル感覚で「企業の中で働く」という考え方がそもそも抜け落ちている人が半数ほどいた。こういう人たちに共通するのは、周囲の状況を読めないこと、自分の立場を客観視できていないことが問題で、やたら自己主張するくせに実際に仕事はできない。

 さらにその社長なのだが、これがもう高度経済成長で頭を使わなくても時代がなんとかしてくれたときの経営のまんま。社長の直属の部署で働いていたインドネシア人スタッフが全員言っていたのだが、「インドネシア人だからといってやたらと馬鹿にする」、「古い学校みたいで全員が仕事が終わるまで帰れないから深夜2時まで働かされて怖い」などの不満を漏らしていた。当然、離職率も高い。日本人スタッフに対する対応も飲みに連れて行って風俗に行き、「団結を高める」というスタイルで、まさに「古き良き日本」のままだった。

 私の勤めていた会社がとりわけひどいとは言えるが、わかりやすい例としてここでは皆さんの参考にしていただきたいと思う。