金融が悪者なのか?いや、コンピューターこそ。アメリカ編
製造業が隆盛を極めた時代が終わり、金融資本が幅をきかすようになる。
ものを作る人間がないがしろにされ、金融屋が不当に儲ける。
『ウォール街』は金融街でのやりとりを描いた名作。
チャーリーシーンは父が小さな航空会社の組合長を務める証券マンで、株で大儲けをするために証券業界に入った。
父は真面目で実直な現場の作業員で、欲がない。
そんなチャーリー・シーンに転機が訪れる。以前から信仰していた有名相場師のマイケル・ダグラスとの取引相手となるのだ。
マイケル・ダグラスは大物で悪辣な手も平気で使ってのし上がってきた。
そのマイケルについて、インサイダー取引など違法なことをして片棒を担ぐチャーリーは、マイケルのセフレ?みたいなゴージャス美人も手に入れ、まさにアメリカンドリーム。
そんな中、チャーリーは父の勤める航空会社の株主を買い占めて、航空料金争いで疲弊する経営体制を立て直すプランをマイケルに進言する。
マイケルは話に乗ったが、実質は航空会社の資産をうっぱらい、社員の年金をいただく算段だった。
それを知ったチャーリーはマイケルのライバルの相場師と組み、マイケルののっとり話を挫折させる。
大まかにいうとこういうストーリーなのだが、ここには製造業みたいな肉体労働、人間の労働を、金融という口先と欲だけの業界が襲っていくという構造がある。父と子を使い、その対比を際立たせている。
ちなみにここでの日本の描かれ方は、東京のマーケットとして言及されているほか、家庭で作られる寿司マシーンとして描かれている。歴史ではノスタルジックな悪者だったり、文化は忍者だったりするのだが、経済はやはり無視できないというのはそのころの認識だったのだろう。
監督のオリバー・ストーンはアメリカの歴史についてのドキュメンタリー『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』という作品を制作しているが、社会批判の精神を持った人物だといえる。
このころのアメリカの経済は、製造業というより金融など目に見えない産業に移り変わる時代だった。つまり、知識を持つものと持たないものが、つまり露骨に頭のいい人間と頭の悪い人間の間での格差が広がり始めた時期だった。今はそれがITになっている。
ITについていえば、数学者の新井紀子さんの『コンピューターが仕事を奪う』が、詳しい。
新井さんによると、今後はコンピューターに自分の意図をしっかり伝えられる能力のある人間と、コンピューターに使われる人間とに二分化していくという。
この本はすばらしい本なので改めて言及したいが、これにあわせて、『アルゴリズムが世界を支配する』を参照すると、より恐ろしい。この本はアルゴリズムに基づいてコンピューターが人間の「感性」や「知性」にいかに取って代わっていくかということを実例とともにあげていく良書。
今は金融界でもアルゴリズムによって作られたシステムが数秒単位で恐慌と好況を起こし、差額を儲けているという。つまり、マイケルが演じていたような相場師ではなく、機械が人間の富を操作し、無機質に数字を増やしている。
実際の法律のことについてはわからないが、映画『ウォール街』ではマイケルは捕まったが、コンピューターはどうなるのか?
というか、そもそも今のようにコンピューターが支配する世の中では、働くということはどういうことなのだろうか?
技術が進化するのはいいが、所詮人間の進化はそれに応じて進んでいない。
難しい難問だが、ロボットをつくることで人間にしかできないことは何かを突き詰める『ロボットは涙を流すか』を書いた、ロボット学者の石黒浩さんのような思考が必要ではないか?
オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下
- 作者: オリバー・ストーン,ピーター・カズニック,大田直子,鍛原多惠子,梶山あゆみ,高橋璃子,吉田三知世
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ロボットは涙を流すか 映画と現実の狭間 (PHPサイエンス・ワールド新書)
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