アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

屈折した反逆心

『日本の歴史をよみなおす(全)』(網野善彦著、筑摩書房)は、普通日本で教育を受ければ持つであろう「男性中心の自給自足の農業国家」という歴史観に対して根本的な疑問を叩きつけた挑戦的な本である。語り口こそ柔和であるが、マジョリティの「正しい」見方に反逆しようとする誠実な怒りと闘争心にあふれたアナーキーなお爺さんによる、「日本」転覆のアジテーションなのだ。

 本書は大学の講義をもとにしており、従来の歴史研究では周縁に追いやられてきた存在や社会事象を再検討し、そもそも「日本」とは何かという本質に迫っていく。女性や低層民とされた非人など、成年男子を中心とした世俗的世界(といえば難しそうに聞こえるが、常に立場に配慮したり、権力闘争に巻き込まれるなどシガラミの多いオジサン的世界)の秩序の外にあったがゆえに、金融業などの職能集団として多大な社会的役割を担ってきたことなど目からウロコの視点が目白押しだ。「日本」の成り立ちが7世紀以後の律令制の導入によるもので、それ以前には「日本」の国号そのものがなかったことや、東日本がロシアなどと独自のネットワークを持ち文化圏を生み出していたこと、日本が多民族国家だという指摘も興味深い。

 この本を読むと、歴代の支配層が識字率の普及で管理社会の形成を試みてきた「日本」ではあるが、漢字という表向きの世界と平仮名や片仮名のホンネの世界の両面が常に存在したように、しばしばこの国の美徳とされる「奥ゆかしさ」は実は権力に対するしたたかな反逆精神に根ざしているのかもしれないと思わされる。徳川幕府による約250年の支配に加え、近代天皇制により多様な「百姓」が均一な「国民」にされていく過程で、その本質が歪められ不明瞭な形でしか表明できなくなった所に「日本」の悲劇はあるのではないのか。「今に見ていろ」の「今」っていつ?それを考えるのが歴史学だと網野氏は問いかける。

 

 

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)

日本の歴史をよみなおす (全) (ちくま学芸文庫)