ポスコロ・スキャンダル本 ベスト3
スキャンダルは自己破壊が強いほど面白い。ポストコロニアル、植民地時代「以後」の世界を生きるための破壊力のあるスキャンダル本ベスト3を選んだ。(以下、敬称略)
柳田民俗学のルーツが「植民地土地調査事業」であることを暴露した本。柳田は台湾植民地経営に農政官僚として参画した後、日本に戻り台湾の高砂族という山岳地帯に住む民族と平地に住む民族との分類を参考にして「山人」と「常民」の概念を創り上げていく。韓国で日韓併合条約などの制定に中核メンバーとして参画し、1912年に「韓国併合記念章」を授与。その後、関東大震災での朝鮮人大虐殺の事実を知った柳田は朝鮮人を朝鮮半島から追いやることに直接的に加担した自責の念からか、沖縄に「癒しの原日本」を見出し、「南島」イデオロギーを創り上げていくことになるのである。柳田とともにアイヌ学者で有名な金田一京助が「純粋な」アイヌ文学を記録に残すため族長を東京の自宅に拉致・監禁して口承伝統を記録していた事実なども暴かれている。
この本が面白いのは、一見個人攻撃に見えるが、問題をグローバルな帝国主義の問題として考察しているところ。「近代の学問」の本質を暴露し、民俗学者だろうが一般市民だろうが、誰もが政治にコミットしている事実を突き付ける。
南島イデオロギーの発生―柳田国男と植民地主義 (岩波現代文庫)
- 作者: 村井紀
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/05/18
- メディア: 文庫
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② 『水平運動史研究【民族差別批判】』(現代企画室、1994)
「水平運動」の戦争責任をこれ以上ないほど追及した在日朝鮮人女性による本。被差別部落民の差別解放運動が日本の帝国主義と同調した、明らかな差別構造を孕んでいたことを歴史的に検証している。解放の父と呼ばれた松本治一郎が「私はいつも反戦的な思想を表明したわけであった」と言いながら、朝鮮人青年徴兵や中国人強制連行・強制労働に加担していた欺瞞を告発している。ちなみに、松本治一郎は最近失言で失脚した松本龍の養祖父。
本来加害責任のある日本人がやるべき歴史的検証を怒りと誠実さをもって成し遂げてくれた著者の金静美女史には頭が下がる。怒りに基づいた記述なだけに「感情的」との印象を与えるかもしれないが、言わんとしていることは非常に真っ当。日本人必読の書。
③ 『朝陽門外の虹』(岩波書店、2003)
最後はいいスキャンダルを。桜美林大学創設者でもある清水安三氏が戦前、そこに生まれた女子は娼婦となるしかない北京随一のスラム、朝陽門外に少女たちの自立を願って崇貞女学校を創設する話。妻とともに資金繰りなどの様々な困難に遭いながら、「支那人にくれてやった命ですから」と理想を実現していく姿は涙なしには読めない。今でも崇貞女学校の後身である北京市立陳経倫中学には清水氏の写真が飾られ、「中国人は、井戸を掘った人は忘れはしません!」と尊敬されているという。
帝国主義全盛の日本にも大陸に献身した人間がいたことを非常によい例でわからせてくれる好著。