アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

小説⑨〜恐怖の新人研修〜「俺って大阪から派遣されてるの?????」

入社から1カ月ほど経った後、新人研修を受けることになった。経験者だった私は何を今更と思ったが、これがカイシャだから仕方ない。

 狭い会議室に呼ばれたのは、私、O君、Dさんの3人。私以外の3人は大学院を出ていて、Dさんはインドネシアの大学で修士号をとった後、フィリピンで留学経験のある帰国子女だ。O君は私立の難関大学修士号を取得した後、就職してきた。

 3人が会議室で集まると、総務部長が現れいきなりパンフレットを差し出した。「〇〇総研新入社員用マニュアル」と書かれてある。いきなりパクリかよ。

 総務部長「じゃあこれから早速始めます」

 O「ん!?」

 いきなりO君が声を上げた。

 総務部長「どうしたの?」

 O「あのー、ここに書かれてある労働条件に契約社員って書いてあるんですけど、、、、」

 従業員一同「え?」

 総務部長「あー、それはインドネシアでは普通、契約社員って感じの表記になるのね」

 従業員一同がわかったようなわからないような雰囲気が出る中、

 総務部長「てか、お前!俺の言うまで勝手に発言するな!こっちも考えて準備してきたんだよ!」

 意味不明にいきなりキレた総務部長にO君が反発。

 O「聞いてない内容でかなりこれ重要だからでしょ?逆ギレってどういうこと?ふざけんなよ!」

 立ち上がって切れだす総務部長「とにかく黙れ!」

 私とDさんは朝の9時からこんな現場を目撃させられてポカーン。

 総務部長「いいか!きっちり順序を守れないなら社会人になんてなれないんだよ!」頭ごなしに「若造を押さえつける」しかできない無能な中年の典型だ。

 O君「じゃあ、この会社をやめるのも、時間の問題かもしれませんね!」

 こいつも無駄に頑固だ。周囲が反発する雰囲気が1カ月の間に新人にもうつっていたのも大きいだろう。

 とりあえず、社会人経験者の私が間に入って抑えた。この時点で大分疲れた。

 研修は進む。

 研修のパンフレットの中には、「就業時間は実際に仕事を始める時間です」って堂々と労働基準法違反が書かれていた。

 とりあえず、読者の皆さんにJ社での労働条件を紹介しておこう。

 私は月給13万。新卒は9万。住宅補助などが込み。保険は超重病でない限りカバーされる。休みは週に1日、夜が遅いため正午から業務開始で基本的に午前0時まで仕事。有給は13日あるが基本的にとれない。1年に1度だけ日本の直行便のチケットの往復便またはそれ相当分の現金が手に入る。運転手は会社全体で3台。

 そして何より大事なビザだが、何と観光ビザで入国し、2カ月経つとシンガポールで出張ビザに切り替えてマックス6カ月滞在。それが切れると出国して再入国を繰り返す。つまり、限りなくブラックな状態で働いているという状態。契約書もなし。1年くらい経つと、準国民資格のKITASというのが取得でき、労働ビザが取得できるかと思いきや、それはできないので国内で更新ができるだけとなる。何と社内で労働ビザを持っていたのは、社長と部長2人の3人だけ。

 ここまで書かれてあることを読んだ時点で、私以外の二人が騒ぎ始めた。

 「え、聞いてない」「なんで労働ビザがないの?」など疑問を連発し始めたのだ。

 私は東京でTから基本的にゴミな条件だということを聞いていたので何も驚かなかったが、二人はなんと無防備にも全く聞かずにインドネシアにきてしまったのだという、、、、。

 しかし、私でも知らない事がいくつかあった。中でも驚いたのは、親戚や知り合いの葬式に出席するために帰国するために、出張ビザを更新するシンガポールへの渡航費や宿泊費などが二親等以上だと自己負担だということ。

 さらに、自分の身分が「大阪の会社の契約社員として働いている身分で、こちらに出張している」ということだった?

 私「大阪?これ何の会社なの?まさかペーパーカンパニーじゃないでしょうね?」

 総務部長「いやー、社長の友達の会社ですが、、、、。ペーパーカンパニーとかじゃないですよ。」

怪しい。

 DO「聞いてないことばっかりなんですけど。どういうことですか?これ?」

 総務部長「へ?T部長から何の話もなかったの?とりあえず、T部長呼んでくるわ」

 事務所に消える総務部長。まあ、業務部長として本来知っておかなければならない事のはずで、要するに責任逃れにTを使ったのだろう。しばらくしてTを連れて戻ってきた。

 私「あのー、DさんとO君に何も説明してなかったんですか?」

 T「いや、聞かれたりしなかったから」

 私「へ?聞かれないと答えないってどういうことですか?」

 T「いや、給料については説明したけど、それ以外はとりあえず来てもらってからでいいかな、と」

 私「いや、こんなトラブルが起きるなんて、そもそもあっちゃだめでしょ。大体、日本の中でこういう話し合いが出来た後でインドネシア来させないと。サギじゃないですか」

 そのとき、Tの常套文句が出た。

 T「海外は自己責任なわけー」

 さすがにこの開き直りに私は怒った。

 私「あのねえ、自己責任って限度があるでしょ?雇用条件もろくに説明してもないくせに、それで自分に都合の悪い事が怒ったら自分たちで解決しろなんてどれだけ雇用者の責任放棄してんの?」

 T「だって、正直に言ったらうちみたいな会社には誰もきてくれないわけー」

 私「いや、だまして連れてきたらそもそもだめでしょ?こんなん今時訴訟されたりしてもおかしくないですよ。そういう意味でもしっかりしてくださいよ」

 Tは卑屈で自嘲的な笑いをして、ごまかそうとした。いつものゲスな癖だ。

 とりあえず、その場は社会人経験者の私が場をしきり、一度キワドい雇用条件の確認をすることにした。

 私「例えば、警察につかまった場合とかはどうするんですか?この身分だと何もいいわけできないし、ワイロとか必要になった場合は会社側で出してもらえるんですか?」

 T「そういうので必要な費用は出すことになってる。それに、エージェントのイワンさんに連絡すればなんとかしてくれるよ」

 私「それは信じていいんですか?とりあえず、まあ僕も怪しい会社だというのは知った上で来てるんでいいんですけど、最低限のリスクだけは抑えさせてくださいよ。それがないのが一番困るんですから」

 T「ごめん。じゃあ、『これからは』だれか雇う時は、『海外で働くってのはそういうこと』って先に説明しなきゃならないってことか」

 私「いや、普通に条件を書面化して渡してくれればいいんです。ないんですか?」

 T「今までつくったことなかった。今回の新人研修だった今年が初めてなんだ」

 全く呆れる限りだ。とりあえず、こんな調子で「研修」は幕を閉じた。

 不信感しか残らないスタートとなった。

 後でインドネシア人スタッフからも聞いたのだが、彼らにも契約書はないらしい。とりあえず「日系」企業というだけで、日本にいいイメージを持ってくれるインドネシア人を入社させ、基本的に奴隷的な扱いをし、少なくとも彼らは数年したら他のまともな日系企業に入り給料が倍以上になったことに驚き、一同に言うそうだ。「あの会社は刑務所で、私たちはまるで戦争中のロームシャだった」と。