小説⑤~「俺、実は辞めるんです」、到着初日に告白される~
日本で言えば、銀座にあたるだろうか。オフィスから程近い繁華街の裏にあるコスに着いた。オランダ風といえばいいだろうか。モルタル製で部屋は30室ほどある7階建ての建物だった。
まず、大家のイブ(インドネシア語で年上の女性に対する敬称)に挨拶。それから部屋に移動して荷物を運び込んだ。
部屋につき、家賃が月3万円程度だということを話され、当初の1万5千円程度と大分違うことに驚いたが、
T「みんな、はじめはこういうところに住むわけー。後で引っ越せばいいじゃん」
とまるで他人事だ。
E君に携帯を早めに入手すること。そして、部屋についてはここの値段は本当に高く、最近の電気代の値上げなどにより3千円~5千円程度家賃が上昇したことなどの説明を受けた。
T部長はそそくさと帰っていった。
とりあえず長旅で疲れていたこともあり、部屋で寝ることにした。夜の1時を回っていたことだし。
その時、E君に少し飲もうと引き止められた。私も疲れていたが付き合うことにした。
E「実は俺、もう辞めるんですよね。あなたが後任でしょうね」
とHに続き初対面で退社することを知らされ、「二人も辞めるの!?」と当惑を隠せなかった。
E君は東京にある有名大学の修士まで進み、NPOなどで学生時代に活動した後、東南アジアの社会に興味をもち、Jに入社したという。
E「いや、アナリストとかになりたかったんですけどねえ。こんなとこいたらそんな力つかないし。転職しますよ。外から見ればほんとによく見えるんだよなあ、この会社。がんばってくださいね」
私の前途はこの日、真っ暗になった。