アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

小説④~漆黒の女、H~同僚と顔合わせ

 車はジャカルタの目抜き通りを走り、オフィスの入っている高層ビルに着いた。車の中に爆発物などがないか、ゲートで警備員がチェックする。チェックが済み、私はT部長とともにオフィスに入った。

 

 オフィスでは納期の直前だったこともあり、従業員、つまり同僚がバタバタと働いていた。

 オフィスは営業と生産管理に分かれており、インドネシア従業員も働いていた。

 

 T部長「これがこれから君が働くところだよ。とりあえず本格的な挨拶は仕事が始まってからでいいから、今日は同じコスに泊まるE君の仕事が終わるのを待って」

 

 私は応接室に通された。J社の企業紹介パンフレットに目を通し、時間をつぶしていると、一人のめがねをかけた、若い女性が部屋に入ってきた。

 

 「すいません。私はT部長に会社のことを色々説明するよう、言われて。名前はHと言います。」

 

 私は挨拶をし、入社3年目という、彼女とひとまず話すことにした。

 普通、こういう場合、J社を選んだ経緯やこれまでの仕事など世間話から始める。ただ、この場合は違った。

 

 H「この会社、なんで選んだの!しっかり待遇の説明受けた?」

 

 いきなり問い詰められ、お前の選択は間違いだというトーンで迫るHに私は困惑した。

 

 H「いや、本当にもうこの会社ブラックですよ。きちんと会社としての待遇が何もされてないし」

 

 私も即座に判断した。この会社がブラックだと。Hの発言からではない。初対面でこれから同僚になる人間に対して、いきなり内情をぶちまけるHの非常識さから、である。こういう人間がいるという事実だけでそう判断する理由は十分だと思う。

 

 実際、後々になって明らかになるのだが、彼女は距離感がつかめなかったり、人の話の要点をつかめなかったりするため、顧客の要望を正確につかめず、度々トラブルを起こしていた。

 

 その後も彼女は、私の観光気分をぶち壊してくれた。

 

 やれ「男は風俗にばっかり行って汚らわしい」、やれ「ビザなどの待遇は最悪」など。

 

 H「私はもうすぐ辞めるんですけど、あなたも気をつけてくださいね!」

 

 延々30分は経っただろうか。嫌気が差し始めたころ、T部長の声が聞こえた。

 

 T「じゃあE君とコスに行ってもらえるかな?」

 

 E君は長身でなんとなくアンダーグラウンドなニオイのする男だった。彼とT部長と運転手と私の4人はコスに向かって車を進めた。