小説③~「男性器」を通って・ジャカルタ到着~
小説③ 〜ジャカルタ到着〜
一人で飛行機に乗る事に慣れていない私にとって、道中は胸が高まった。「どんなところなんだろう」、「インドネシア語を覚えよう」など期待に胸が膨らんだ。
私の思いをよそに、飛行機は淡々と航路を進み、目的のスカルノ・ハッタ国際空港に着いた。
私にとって、インドネシアの首都の空港に国を創った「国父」の名前がつけられていることは新鮮だった。アメリカのケネディ空港などもそうなのだが、もともと何もない平野に空港という人工物を作るという行為。それはやはり自己顕示欲、それもほぼ全て男性の、が最もよく現れるのだろう。銅像はでかいければでかいほどいいのと同じで、巨根主義の最もよい例だと感慨深かった。後になって、ジャカルタでは街の道路に「~博士」「~将軍」など「偉人」の名前がことごとくつけられているのを見て、国によって成果を出した人間に対する扱いがまるで違うと再確認した。だって想像もできないだろう。「田中角栄通り」という通りが存在することなど。そういったメンタリティがいいかどうかは知らないが。
「男性器」につき、旅行ビザを1千円程度出して買わなければならないことを知らなかったことなど英語もままならない私ではあったが、なんとか入管を通過した。
「おーい!」T部長である。空港の入口まで運転手とともに迎えにきていた。
「いやあ、『無事に』入管を通過できたんだね。これは運転手のイワンだ。よろしくね。」
私はイワンさんに「ありがとう」を意味する「トゥリマカシー」を言い、車に乗った。
T部長によると、このままいったん会社に行き、同僚が多く住むコスという簡易アパートに連れて行くという。到着時で午後10時だったから、ご苦労様なことだと思った。自分がもうその仲間入りをするということは忘れて。
車の窓から見える景色は、自分が考えていた「発展途上国」とは違い、立派な道路とビル群が見えた。ただ、違っていたのは車の渋滞のひどさとビルの電気が軒並み消えていて、真っ暗だったことだった。T部長によると、発電量が足りないことやある一定の時刻を過ぎると電気代が割高になるらしく、日本のように電気を使わないそうだ。あと、インドネシア人が日本人のように夜遅くまで働く習慣や考えがないということも。
私はこの時、多くのインドネシアに来る日本人が抱くような観光気分だったことを告白せねばならない。あまり知られていない国に来ることは、本当にドキドキしていいものだと思う。