アジアで就職したらブラック企業だった~南の島は蟹工船~

東南アジアでブラック企業に就職し、ストレスから入院し逃げ帰ってきた人間のブログ。        注・このブログはモデルとなった現地企業で働く人々などへの取材をもとにしたフィクションです。ただ、実際に起きている「空気感」は本物です。その辺りを味わっていただければと思います。

これだけは聞いとけ!~契約条件編~

 私は自分が会社を1年で辞めたことについて全く後悔していない。それは入る前に大体評判を人材派遣会社から聞くなり、リスクがどの程度になるのか計算した上で、入社したからだ。

 そういうことで入社前にはできるだけ慎重になって情報を集めるなり考えたりするほうがいい。冒険家タイプで能力がある人ならいいが、そうでなくてただ冒険心だけが強かったり夢見がちな人は入社した後辞めても消化不良で後悔して後々ずるずる引きずるパターンが多くなると思う。

 私はまず、面接時に細かく条件を聞いておいた。具体的には給与はもちろんのこと、保険の中身、離職率、辞めた社員の就職先、現地スタッフとの絡み、女性比率、年齢割合、ビザ関係などだ。当たり前だと思われる人も多いかもしれないが、この段階でしっかり確認しておかないと入社後のトラブルになるし、特に海外で初めて仕事をする人は、仕事を始めてからのコミュニュケーションの齟齬が考える以上に大きなショックを受けて、雇い主に対する不信感につながり、辞職の理由になることも多いにあり得る。

 J社でいうと、初めの面接で部長は聞かれない限り条件を明示しなかった。基本的に日本の会社だと企業のHPに条件が乗ってあったり、契約書など書面で手渡されることが普通だと思うが、必ずしもそういう「日本の普通」が通らないのが海外就職だ。細かく聞いていて、その上でメモしたそれをメールで採用担当者に確認してもらうのが一番いい。契約書がなくてもそれに基づいて、言った言わないの水掛け論になるのを防ぐためだ。肝心なところは字にしておくに越した事はない。

 入社に際して条件を確認しなかった際にどうなったかというと、J社で採用から1カ月後に同時期に入社した私を含む3人で新人研修があった。このときの就労心得の中にも「就労時間は働き始める時間」など労働基準法違反が堂々と書かれてあったが、それはともかくとして、その時私と同席した男性1人、女性1人が研修が始まった途端「そんなの聞いてない」を連発し始めたのだ。新卒だからといってしっかり条件を確認しないのはどうかと思うが、一番悪いのはそもそも日本で説明しなかった会社側なのは明らか。私も聞いた事のない条件がいくつか出て問い質したところ、「本当の条件を言うとうちみたいな会社に人が来てくれない」と開き直り始めた。確かに中小企業は人材獲得が難しいかもしれないがこういうやり方をしていると、海外なだけによりだまされたという感じは否めず、社員が定着しないと思う。

 さらにJ社だけでなく、こういう社員を人間として見ない会社は社員に「自己責任」という言葉で不利な条件が海外就職で当たり前と言ってくることがあるが、そういう考え方は万国共通でおかしく、真っ先に帰国することをおすすめする。実際その会社では頑張って実績を挙げた社員が入院したが、ぎりぎりまで働かせていた。本人がどう感じるとかいう以前の問題で管理者としての責任も果たしていなかった。

 もちろん海外では就職する時点から考え、決断し、病気などのトラブルにあっても自分で解決しなければならないなど自己責任があるのは当たり前。ただ、社員を雇う側がしっかりと受け入れる体制を整えないにも関わらず、採用するということは、働きやすい職場を作って行く義務を果たさないという点で会社の従業員に対する甘えだし、結局従業員を「使い捨て」としてしか見ていない。もちろん、中小企業にそんな余裕ないという事も分かるが、ものには限度というものがあって、こういう「日本の常識外の会社」があるのが現状だと頭の角に入れていただければ、私の残念な経験が生かされると思う。

 これは私見だが、海外で長く住んでいる人ほど間違った「自己責任」を言う人が多いが、こういう人の話こそ無責任なので聞かない方がいいと思う。おそらく先進国で日本だけが自国民がトラブルにあっても「自己責任」で切り捨てるが、これは一般の日本人にも広く共有されていて、国や企業からの保護が受けられない「ビミョーな国際人」ほどこういうことを言うが、大体そういう人は家が金持ちで恵まれた教育を受けているケースがほとんど。私も含めて普通の若者は何も持っていないから出来るだけ手厚い保護を求めた方がいい。そもそもヒッピーも含めて欧米人が多く東南アジアに来ているが、彼らのほとんどが日本人よりも気楽そうな感じを受けるのは、基本的な社会保障がしっかりしているためで、食えなくても最悪本国に帰れば、食って寝るくらいのことはできるセーフティーネットがある。消費税が高くてもこういう税金の使い方をしてくれるとありがたいのだが、残念ながら日本ではこういう税金の使い方はされない。